STEAM教育とは?
歴史や問題点・日本の取組みについて紹介
「STEAM教育」とはどのようなものか、ご存じでしょうか。この記事ではSTEAM教育についてやSTEAM教育の歴史、問題点や日本、海外での取組み事例について紹介します。STEAM教育について興味のある方、どんな課題があるのか知りたい方はぜひご覧ください。
「STEAM教育ってどんな教育?」
「STEAM教育はどんな取組みがされているの?」
このように、STEAM教育という教育方法を聞いたことはあっても、実際にどのような教育なのか知らないという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、STEAM教育とはどのような教育なのか紹介します。STEAM教育が誕生したきっかけや、日本の教育事例などについても紹介しています。どうしてSTEAM教育が取り入れられるようになったのか、どのような教育なのかがわかるでしょう。
また海外と日本の違いとして、STEAM教育の課題や、日本で行われている政策についても紹介しています。日本と海外ではSTEAM教育の取組みにどのような違いがあるのか、具体的な政策についての知識も得られるでしょう。
STEAM教育を詳しく知りたい方は、ぜひこちらをチェックしてみてください。
STEAM教育とは
「STEAM教育」とは、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学・ものづくり)・Art(芸術・リベラルアーツ)・Mathematics(数学)という5つの分野の教育のことです。
STEAM教育は、人工知能の影響や技術革新が進む現代に合わせて生まれました。もともとあった理数教育に「Art(芸術・リベラルアーツ)」を加えた、幅広い範囲の教育であることが特徴でしょう。
Science(科学)
人間や動植物から太陽光・電磁波、宇宙など広範囲の内容を含み、子どもが多様な事象に関心を持つきっかけとしての役割を担っています。
STEAM教育では、数理的思考の土台となる課題や法則に気づく力をScience(科学)で養います。子どもが数理的思考に苦手意識を持つ場合は、教師が実験やフィールドワークなどを行い、苦手意識を取り除くことが求められるでしょう。
Technology(技術)
子どもが電気回路の仕組みやプログラミングの学習によって、論理的思考や問題を解決する力を養うのが目的です。また、実際に何かを作る場合もあります。
日本では2020年より、小学校でのプログラミング教育が全面実施されました。プログラミング教育を子どものうちから行うことで、プログラミング的思考を育成して発想力を伸ばせます。
また、子どもの将来の選択肢を増やせることや、エンジニア不足を解消できるとも考えられています。
Engineering(工学)
機械設計や自動車整備、ロボット工作など、ものの生産力につながる内容を学ぶため、産業に必要な生産力や空間的把握能力の育成に役立ちます。
自分たちでプログラミングしたロボットを自走させたり、限られた素材で製品を作成するための図面を引いたりといったように、実践的な教育が行われています。
Art(芸術)
子どもの発想力や想像力を育み、それらを表現する能力を養います。教育の過程で自分の考えやイメージを言語化して表現し、それを伝える能力や、社会の一員として必要になる能力を鍛えられるでしょう。
STEAM教育のArt(芸術)では美術に限らず、ダンスや演劇、音楽や写真、3Dプリンターなど幅広い分野が対象となっています。
またSTEAM教育の「A」には、Artだけでなく「Liberal Arts(リベラルアーツ)」も含まれています。このため芸術や文化だけでなく、生活や経済、政治や倫理などの学びも求められるでしょう。
Mathematics(数学)
数学の公式や図形の性質を学び、論理的に考える力を養うことを目的とし、さらに微分・積分なども学びます。
数理的な考え方を学ぶことは、STEAM教育のほかの教科でも役立ちます。課題を解決する力を伸ばして、Art(芸術)で自由に創造したり表現したりする力を発揮できるようになるでしょう。
STEAM教育誕生のきっかけ
現在の「STEAM教育」の前身は、「STEM教育(理数教育)」です。STEM教育は数理科学を重視する考え方から2000年代のアメリカで誕生し、当時の大統領の演説で広く知られるようになりました。
ここではSTEAM教育はなぜ誕生したのか、誕生のきっかけについて紹介します。
始まりはSTEM教育
STEAM教育の前身であったSTEM教育の頃は「Art」がありませんでした。しかし、創造力の重要性が増したことによって「A(Art)」が追加され、STEAM教育となりました。
創造力の重要性が増したのは、新しい技術を生み出し、広めるために創造力が必要となるからです。このことからSTEM教育に「A」が加わり、より他分野を横断する教育となりました。
日本では、2019年に文部科学省が「中央教育審議会諮問」において高等教育でのSTEAM教育の推進について述べ、注目を集めました。
STEAM教育による人材育成の必要性
現代では、AIが急速に発展してきました。そして、AIやロボットのような新しい技術には科学だけでなく工学の知識も必要です。現代で必要なスキルが多分野に変化してきていることから、STEAM教育による、スキルを持った人材育成が重要でしょう。
また、日本の内閣府は「Society 5.0」の実現を目指しています。Society 5.0とは、ロボットやAIなどをはじめとする技術を産業、社会に取り入れることで実現する未来社会の姿です。
Society 5.0の実現に向けて、新たな価値の創造や、分野・業界を超えて連携できる人材が求められています。
日本のSTEAM教育
日本でもSTEAM教育の考え方を活かして、文部科学省により、外国語教育の導入やプログラミング教育の必修化などが行われてきました。プログラミング教育については小学校は2020年度から、中学校は2021年度、高校では2022年度から必修化されています。
小学校・中学校のSTEAM教育
小学校・中学校については、学習指導要領に理数教育の拡充が明記されています。授業においては、課題発見・解決型の授業を取り入れるよう、提言されました。
新しい学習指導要領では、科学的な探究を目的とした観察や実験を行い、必要なデータを収集して分析し、課題を解決することなどが盛り込まれました。
また、国語以外のほかの教科でも生きる言語能力を磨くこと、伝統や文化、自然災害の教育についても重視されています。
高校のSTEAM教育
2022年度から「理数探究基礎」および「理数探究」が始まり、日常や社会と理数の関連性を重視していくことになっています。これは将来の知の創出をもたらすために、創造性のある人材育成を目指したものです。
ほかにも日本の政治や経済、和食や和服、和室といった伝統的な文化に関しても充実されました。「情報I」が新設されたため、コンピューターなどを活用する、データサイエンスについて充実するといった内容も盛り込まれています。
海外と日本のSTEAM教育の違い
日本でもSTEAM教育が推進されていますが、日本のSTEAM教育は遅れているといわれています。海外とは異なり、日本ではIT環境が整備されていないことや、教員不足、STEAM教育の認知度が低いといったことが理由に挙げられます。
特に日本で不足しているといわれているのは、STEAM教育の「A」にあたるArtです。このため、子どもの創造性を養う教育が求められています。
海外の場合、アメリカではSTEAM教育を国家戦略としてきました。中国でもAIの教育利用に積極的に取組んでおり、シンガポールは理数教育に力を入れています。
STEAM教育の課題
STEAM教育は、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Art(芸術)・Mathematics(数学)など多数の分野にわたる教育です。このため、STEAM教育を行う際に、教員側や環境に課題が生じることがあります。
日本のSTEAM教育が遅れている理由として、どのような課題があるのか見ていきましょう。
ICT導入の遅れ
STEAM教育を進めるには、「カリキュラム」と「ツール(ICTの導入)」×「ソフトウェア」などの3軸が必要です。しかし日本においては、STEAM教育の特に「カリキュラム」や「ソフトウェア」の導入が進んでいないという課題があります。
たとえば海外では「eラーニング」が積極的に取り入れられていますが、日本の場合は違います。日本は海外と比較してもICTを有効に活用する環境が整っていないことが、STEAM教育の遅れにつながっているでしょう。
家庭環境の格差
STEAM教育に必要な機器は、パソコンのように高額なものが多くなっています。このため家庭の事情や自治体の補助などによって、生徒の学力に差が出てきていることも課題でしょう。
自宅に「Wi-Fi」や「パソコン」があるかないかなど、家庭環境はさまざまです。STEAM教育に熱心な家庭であるか、子どもをプログラミング教室に通わせるかどうかといった違いも出てきます。家庭環境の格差によって、子どもが家庭で得られる体験に差がついてしまうでしょう。
指導教員の不足
現在のSTEAM教育には、現役の教員にプログラミング知識が求められたり、子どもの好奇心に対応することが現状難しかったりといった課題があります。
STEAM教育を推進しても、指導教員が追いついていなければ十分な教育は行えなくなります。しかし現役の教員は忙しいため、さらに専門的なスキルを求めるのは難しいでしょう。
また、STEAM教育に対応できる指導教員でもそれぞれのスキルに差があり、指導内容に違いが出てしまうという課題もあります。外部専門家を活用するといった方法などで、指導教員の不足を補っていく必要があるでしょう。
日本のSTEAM教育の事例
日本のSTEAM教育は始まったばかりで、ノウハウはなく手探りで進んでいる状態です。その一方で、工業高校ではSTEAM教育が進んでいます。
ここからは日本のSTEAM教育の事例として、「鳥取県立鳥取工業高等学校」と「岡山県立岡山工業高等学校」の取組みを紹介します。どのようなSTEAM教育を行っているのか、参考にしてみてください。
【事例1】OCP
「岡山県立岡山工業高等学校」はSTEAM教育として、課題解決能力を養うために「OCP(Okako Creative Project)」を実施してきました。3年間の見通しをしっかり立てた上で、「本物を体験する」ことを意識して取組んでいます。
具体的な取組みとして、1年生ではLHR(ロングホームルーム)の時間にOCP入門として「ミックスHR」を行ってきました。チームを作って思考ツールを使ったアイデアを出す手法や、学校生活を豊かにするための課題解決を目指します。
2年生ではクラスを越えてチームを作り、「PBL(課題解決型学習)」に取組んでいます。チームで役割を決め、どう課題を解決するのかイラストや模型を製作し、より魅力的に発信する力も養ってきました。3年生では地域の課題解決、先端技術の学習や研究に取組んでいます。
【事例2】ドローン研究
「鳥取県立鳥取工業高等学校」では、ワンランク上のものづくりや地域貢献を目指して、「鳥工版 STEAM教育」が行われてきました。
本当によい作品を作るには、徹底的にこだわってさまざまな面を考察する必要があります。その成果を表現する力もいるでしょう。作った制作物をより魅力的なものにするために、芸術面でのこだわりも重要です。
鳥取県立鳥取工業高等学校の具体的な取組み事例としては、「ドローン研究」があります。この研究ではドローンを操縦するだけでなく、ドローンの仕組みやどういう過程を経て作られたのかといった歴史について学び、ドローンへの知識を深めました。
海外のSTEAM教育の事例
日本でのSTEAM教育はまだまだ始まったばかりで、黎明期にあります。しかし海外ではすでに積極的にSTEAM教育が行われてきました。
そこで、ここからは海外のSTEAM教育の事例として、アメリカとシンガポールの事例を紹介します。海外ではどのようなSTEAM教育を実施しているのか、ぜひこちらを参考にしてみてください。
アメリカの事例
アメリカの事例として、「High Tech High」ではSTEAM教育のなかでプログラミング教育に力を入れ、eラーニングを積極的に採用しています。
High Tech Highでは「PBL(課題解決力を目的とした学習)」が行われていることも特徴でしょう。またテストを行わず、クラスやチームで作品を作り上げて発表する展示会を行っています。
これにより生徒たちは自分たちで課題を考え、実現するためのプロジェクトを進めることを学んでいます。
シンガポールの事例
シンガポールには、政府直属のSTEAM教育機関として「サイエンスセンター」があります。このサイエンスセンターでは、STEAM関連領域に関して、博士号や修士号を持つ人材が授業を受け持っています。
サイエンスセンターでは対象年齢を設けておらず、約1000ものSTEAM体験が可能です。低学年から参加できるプログラムが用意されていることも、特徴といえるでしょう。シンガポールは、国を挙げてSTEAM教育に力を入れています。
日本の
STEAM教育推進のための政策
ここからは、日本のSTEAM教育推進に取組む文部科学省、経済産業省の政策について紹介していきます。
日本ではまだまだSTEAM教育という言葉の知名度はなく、一般的な認知度も高くないのが現状です。しかし文部科学省や経済産業省はSTEAM教育を推進していくため、具体的な政策を行っています。どのような政策があるのか、見ていきましょう。
経済産業省の政策
経済産業省では、未来社会の創り手となる子どもたちを育むため、また育むきっかけとするための「STEAMライブラリーVer.1」の公開を行っています。
STEAMライブラリーVer.1は、「学びのSTEAM化」として開発されました。このため、STEAMライブラリーVer.1ではSTEAM教育の5つの分野を学ぶことができます。
具体的な探求テーマとして、地域課題やデータ分析、少子化問題や環境問題、ロボットやエネルギー、地方創生や経済などさまざまなテーマが用意されています。
文部科学省の政策
文部科学省では、「Society 5.0」の実現に向けた人材育成としてSTEAM教育の推進を掲げています。
日本の教育水準は、世界的に高い評価を受けている一方で、自分で考える、といった自立した学びは十分ではないといわれています。STEAM教育は子どもたちが自ら学び、未来を生き抜く力を養っていくために必要と考えられているのです。
STEAM教育に必須のGIGAスクール構想
「GIGAスクール構想」は総務省・文部科学省・経済産業省の三省が、通信ネットワークの整備や生徒一人ひとりにデジタル端末を支給することを目指した政策です。
STEAM教育にGIGAスクール構想が必須という訳ではありません。しかしGIGAスクール構想によってICT環境が整備されICTを活用できるようになることで、子どもたちの意見交換や情報へのアクセス、eラーニングの活用や教員の負担軽減といったメリットがあるでしょう。
STEAM教育は創造力を
育むことができる
STEAM教育はIoTやAIなどの急速な発展によって、注目されるようになった教育です。STEAM教育の強みは、人にしかできない創造力を育むことができる、ということでしょう。
これからAIがさらに活用されていくなかでも、自ら作っていく力を持った人材を育てる、それがSTEAM教育です。子どもたちを未来に適した人材に育てるため、ぜひSTEAM教育を取り入れていってみましょう。