文部科学省が推進する「アクティブラーニング」とは?実際の導入事例と効果について詳しく解説
「アクティブラーニング」とはどのようなものかご存じでしょうか。この記事ではアクティブラーニングの内容や実践例、実践するメリットやデメリット、導入時の注意ポイントなどを紹介しています。アクティブラーニングについて詳しく知りたい方、実践したい方はぜひご覧ください。
「アクティブラーニングって何?」
「アクティブラどのようなアクティブラーニングの学習方法があるの?」
このように、アクティブラーニングについて、詳しく知らないという方もいるのではないでしょうか。
この記事ではアクティブラーニングの内容や現状、課題について紹介します。記事を読むことでアクティブラーニングについての知識だけでなく、現在どうなっているのか、どのような課題があるのかわかるでしょう。
また、アクティブラーニングを実践するメリットも紹介しています。アクティブラーニングをした方がいいのかどうか、判断できるようになるでしょう。授業内容の例や効果的な学習方法も紹介しているため、実践したい場合に役立ちます。
アクティブラーニングに興味のある方は、ぜひこちらの記事をチェックしてみてください。
アクティブラーニングとはこんな教育法
アクティブラーニングとは、子どもが受け身で授業を受けるのではなく、自ら考え、学習する教育法です。アクティブラーニングには、「主体的」「対話的」「深い学び」の3つのポイントがあります。
「主体的」では子どもたちが能動的に学習に取組むこと、また取組んだ内容を振り返って次につなげられるようにします。「対話的」は、他の子どもとの共同や教師、外部との相互作用(議論)から、自分の考えを広げて深められるようになることです。
「深い学び」ではただ学ぶのではなく、学びの中で問題を発見し、解決していけるようにします。
具体的にはグループワークやディベートのような形態で行われる
アクティブラーニングは教師からの一方的な講義にならないよう、グループワークやディベートといった形で実施されています。
グループワークでは複数人でグループを作り、グループ内で議論をして結論を出し、成果物を提出、あるいは発表します。ディベートは特定のテーマについて賛成派と反対派にわかれて討論した後、第三者によって採否が行われるものです。
どちらの場合でも学生は議論をするため、論理的や認知的教養、知識といった能力を鍛えられるでしょう。
アクティブラーニングは文部科学省が推奨している
アクティブラーニングは主体的かつ対話的な深い学びを実現するために、文部科学省が推奨している教育法です。
近年、少子高齢化問題やグローバル化などにより、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化してきました。こうした時代の変化に対応するため、これからの時代で求められる資質や能力を育む教育法として注目されたのが、アクティブラーニングです。
アクティブラーニングを実施することで、子どもたちは能動的な学習、生きて働く知識や技能の習得、未知の状況に対応する能力などを得られるでしょう。ニーズや時代の変化にも対応できる人材に育ちます。
アクティブラーニングの目的は知識の活用力を定着させること
アクティブラーニングでは子どもたちが特定の知識を得るというよりも、知識を活用する力を得ることを目的としています。必要な知識がなかったら、対応できないというのではなく、ない知識は自ら学ぶようになります。
また、適切に知識を活用するには、自分が学んだ知識を正確にアウトプットできなければなりません。相手にわかりやすく伝えるためにはどうすればいいのかという、社会的能力も身に付きます。
アクティブラーニングの現状と課題
現状、教科によってアクティブラーニングの実施状況が違うという課題があります。
アクティブラーニングは学校単位というよりも、個々の教師の判断で実施されている傾向にあります。教科ごとでみると、国語の授業で取り入れられる割合が高く、次いで外国語、最も実施割合が低いのは数学です。
ただ、実施している教科でもディスカッションやディベートをするケースが多く、理解深化型の活動が少ないという課題も指摘されています。
また、アクティブラーニングを取入れることには、教師の負担増加や、授業が遅れる心配、学業成績が低下するリスクなどを指摘する声もあります。
教育の理解を深めるため、研修会や勉強会の参加、授業準備に時間をかけられるように環境整備することなどが求められています。
アクティブラーニングを実践するメリット
アクティブラーニングを実践することで、学生は自らの意志で学習に取組めるようになります。また、学習の中で課題を見つけ、その課題を解決するにはどうしたらいいのか考えるため、課題を解決する力も身に付くでしょう。
さらに、ディベートやグループワークを行うことで、自分の伝えたいことを相手に正確に伝える社会的能力も磨かれます。
アクティブラーニングを実践するデメリット
アクティブラーニングでは答えを教えることはないため、授業には時間がかかり、授業内容の評価も難しいでしょう。グループワークやディベートの中で、いさかいが起こってしまう可能性もあります。
また話すのが苦手な子どもばかりだった場合、積極的な議論が難しくなるでしょう。
アクティブラーニングは知識のインプットを目的としていないため、一般的な受験には向いていないとされています。
現場で実践されているアクティブラーニングの効果的な学習方法
アクティブラーニングには、いくつかの学習方法があります。それぞれの学習方法によって、得られる効果に違いがあるでしょう。
以下では4つの方法について説明いたします。アクティブラーニングを行う際は、以下の方法を参考にどれを実践するか選んでみてください。
ジグソー法
ジグソー法はトピックやテーマについて複数視点で書かれた資料を参考にし、自分で納得できた範囲を説明できるようにします。その後で他の人と情報交換し、トピックやテーマへの理解を深めていく学習方法です。
ジグソー法では、資料を読んだ段階ですべてを理解する必要はありません。自分が納得できた範囲について説明を作り、他の人と情報交換することで、トピックやテーマ全体への理解を構築していきます。
KP法
KP法とは、話したいことや書きたいことを紙に書いて、ホワイトボードに貼っていくというシンプルなスタイルのアクティブラーニング実践方法です。KP法のKは紙芝居を意味しており、Pはプレゼンテーションを指しています。
KP法ではシンプルに伝えたい内容を書くことや、思考を整理できるようになるでしょう。言葉を選ぶこと、伝えるべき情報は何なのか情報の取捨選択が行える、伝え方の構成を考えデザインできる力などが身に付きます。
ただし紙とペン、ホワイトボードなどが必要で実施場所が限られること、大人数で実施する場合には向いていないなどのデメリットがあります。
学び合い
学び合いは、子どもたちが主体で課題を解き、集団として解決していく形で、教師があまりかかわらない授業方法です。
教師がかかわらないことで、子どもたちが主体的にかかわり、協力することになります。子どもたち全員が参加でき、遅れた子どもを余力のある子が助けて、全員でゴールすることを目指します。
そのほかの手法
茨城県立並木中等教育学校中島博司校長が考案した「TO学習」「R80(アールエイティー)」などの手法もあります。
TO学習は、異学年の子どもたちでグループワークを行う学習です。TeachingOhters(他の人に教える)とTolearning(深い学びへ向かう)という意味合いを持ちます。
異学年交流を行うことで、自分の考えていることを学年の違う相手に論理的に伝えること、より効果的に教える方法を学べます。
R80はReflection(振り返り)とRestructure(再構築)のRを取ったもので、アクティブラーニング実施後の振り返りを80文字以内、かつ2文でまとめる手法です。伝えることを80文字以内におさめるため、子どもたちの思考力や表現力、論理力などが養えられます。
アクティブラーニングが小学校で導入された実例
小学校で行われているアクティブラーニングにはどのようなものがあるのか、実例を学年ごとに紹介します。
・1年生では音楽の授業で、グループをわけて手拍子でのリズムゲームや、子どもたちが考えたハーモニカの合奏します。
・2年生は算数の授業の中で、身の回りにあるものから図形を見つけ出し、それぞれどのような図形かを考えます。
・4年生では国語の授業で、文章と写真との関連付けが行われます。新聞記事を読み、それに合った写真を探します。
・5年生は音楽の時間に、3つの国の挨拶から、それらの国をイメージする旋律を作ります。
・6年生では体育の授業で、開脚後転のよい例・悪い例を紹介します。
大学のアクティブラーニングの授業内容例
アクティブラーニングは、大学の授業でも取入れられています。しかし大学によって、どのように取入れているのか違いがあるでしょう。
それぞれの大学でどのようなアクティブラーニングが行われているのか、5校を例に紹介します。
岡山大学
岡山大学の薬剤部では急変時の学習として、「血清カリウムと心電図」のテーマで低カリウム血症だったケース、高カリウム血症のケースの2パターンのシミュレーションを行うなど、シミュレーション教育に力を入れています。
シミュレーション教育では状況に応じて学生が考え、判断・行動します。自らの行動を後から振り返ることもするため、実践力を身に付けていけるでしょう。
名古屋商科大学
名古屋商科大学は全国に先駆け、教養科目から専門科目まで、一貫してアクティブラーニングを実施した大学です。学修手法としては、「ケーススタディ」と「フィールドスタディ」の2つの手法を用いています。
ケーススタディでは、学生が過去の企業の実例を実体験します。実際のビジネスに適応可能な汎用力を身に付けられるでしょう。
フィールドスタディでは周辺地域の購買活動や、ニーズを見つけ出します。現状ある課題を解決するとともに、新たな課題を発見できるようになるでしょう。
同志社大学
同志社大学では2006年より、実践型・参加型学習を重視した「プロジェクト科目」を設置しています。
プロジェクト科目は、講師が地域社会や企業の方であることが特徴です。地域社会や企業がもつ教育力を取入れることで、実践的な問題の発見や解決能力といった、学生の総合的な人間力の育成を目的としています。
地域社会や企業の生きた技術、マネジメント・サイクルを学べるでしょう。プロジェクトの立ち上げから完成まで主体的にかかわることで、実践的な問題発見・解決力を身に付けられます。
上越教育大学
上越教育大学では平成31年度の大学改革により、アクティブラーニングを積極的に導入してきました。全授業科目を対象としたアクティブラーニング導入率は、学部では令和元年度78 .7%、令和2年度86.7%でした。
大学修士課程では令和元年度は83 .5%、令和2年度90.0%です。大学院専門職学位課程(教職大学院)では、令和元年度に92.1%でしたが令和2年度に95.9%まで伸びています。
学生が「21世紀を生き抜くための能力」を得られるよう、基礎力や思考力、実践力などの汎用的能力の育成を目指しています。
産業能率大学
産業能率大学では、主体性を喚起するための「SANNOアクティブラーニング」が行われています。
産業能率大学がアクティブラーニングを導入する目的は、学生が自主的に学ぶことで、知識を定着させるためでしょう。具体的には、グループワークやプレゼンテーションなどの授業が行われています。
SANNOアクティブラーニングで、実際のビジネス社会で課題に直面したとしても、解決していける力を養えます。
アクティブラーニングが導入された背景
アクティブラーニングが導入されてきたのは、社会のあらゆる問題を自ら解決していく力をもつ人材が、求められるようになったためでしょう。
一方的な講義ではなく、子どもに参加させるアクティブラーニングによって、能動的に学習することや認知力、論理力、社会的能力といった汎用的な能力を育むことができます。社会が変化したとしても、ニーズに応えられる人材を育成できるでしょう。
アクティブラーニング導入時に注意するべきポイント
アクティブラーニングにはメリットばかりではなくデメリットもあり、導入しても失敗してしまう事例もあります。アクティブラーニングのデメリットを和らげ、失敗しないためには、導入時に注意しなければならないポイントがあるでしょう。
どういったことに気をつければいいのか紹介するため、参考にしてみてください。
受講生のモチベーション管理
受講生が高いモチベーションで授業を受けられるよう、魅力的なカリキュラムづくりを心がけましょう。
もし受講生のモチベーションが低ければ、ただのおしゃべりでグループワークやディベートといった議論にならない可能性があります。自主性を重視した教育法であるため、やる気がない受講生はただの自習になってしまう可能性もあるでしょう。
受講生が積極的に参加できる教材づくりや、学習プロセスへの所有感などで、モチベーションを高めていきましょう。
授業のマンネリ化を防ぐ
質問や小テストの実施、長時間ではなく短時間タスクを実行することなどで、授業のマンネリ化を防ぎましょう。
アクティブラーニングでよく行われるグループワークでは、毎回同じようなパターンになってマンネリ化してしまうことがあります。新鮮さが失われると、受講生のやる気も下がってしまうでしょう。
長時間のタスクを複数の短時間タスクにしたり、授業の進め方を変えたりする必要があるでしょう。
グループワークで積極的に議論できる環境を作る
消極的な受講生も積極的に議論に参加できるよう、グループワークの意義を伝えたり、リーダーシップのある人をリーダーに選んだりする必要があります。
アクティブラーニングは、受講生の能動的な参加を重視しています。しかし、いきなり全員が積極的に動いてくれるとは限りません。積極的にかかわろうとしなかったり、人任せにしたりする受講生もいるため、議論への参加姿勢に差ができてしまいます。
これを防ぐためには、グループを細分化してしっかり授業の意義や目的を伝えること、適切なリーダーの任命が必要です。
アクティブラーニングの定着はメリットが大きい
これまでは、一方的に講義を行うスタイルの授業が多く行われてきました。しかし現在、時代の変化やニーズにより、受動的ではなく能動的に動ける人材が求められるようになっています。
アクティブラーニングはこのような時代の流れにより、注目されるようになった教育法です。
アクティブラーニングを実践することで子どもたちは自ら学習することを覚え、課題を発見し、解決策まで自力で見つけられるようになるでしょう。
汎用的な能力が育つため、時代やニーズの変化にも対応できる人材に育つ、ということが大きなメリットです。