子どもにスマホはまだ早い?悪影響?上手な付き合い方と家庭でできる情報モラル教育
「子どもにスマートフォンをいつから持たせるべき?」と迷われている方は多いのではないでしょうか。とはいえ一度持たせると、SNSやゲーム、インターネットへの依存や、知らない人との交流など、心配要素はさらに増えますよね。
そこで今回は、情報モラル教育やタイムマネジメント、子どもの学習などに関する研究・指導をされている静岡大学の塩田先生にお話をうかがいました。お子さまにスマホを持たせるメリットや注意点など、子育てのヒントが満載です。
<インタビューをさせていただいた方>
静岡大学教育学部 学校教育講座 准教授 塩田 真吾 (しおた しんご)さん。早稲田大学大学院修了、博士(学術)。千葉大学特任研究員、静岡大学教育学部助教、講師を経て現職。静岡大学若手重点研究者(第4・5期)。
<「情報モラル教育」とは?>
インターネットが社会に大きく関わっている現代では「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方や態度」が必要とされます。そのため、文部科学省告示の学習指導要領において、それらを養う「情報モラル教育」を、各教科の指導においても身に付けさせることが定められています。もちろん学校だけではなく、保護者もその教育の目的を知り、必要な心得をお子さんに伝えていくことが望まれます。
子どもにスマホを持たせるかは年齢ではなく生活態度で判断しよう
インタビュアー(※以下、イと表記):塩田先生はお子さんにスマホを持たせるのは何歳頃からが適当だと思われますか。
塩田(※以下、塩と表記):お子さまのあんぜんのために保護者がスマホを持たせたい場合は、何歳からでもよいと思います。もちろん、これは利用できる機能を制限・管理することが前提です。
だけれども、子どもがスマホを持ちたがっている場合は、一概に何歳というのは難しいというのが私の見解です。
ただ、ひとつ目安になるのは、お子さまが「ルールや約束事を守れているか。また、何か困ったときには保護者の方にきちんと相談できているか」ということです。普段のお子さまの生活を見て、それらがきちんとできているようであれば、スマホを持たせてもよいのではないかと思います。
「使い方の理想」を理解して持てばメリットは多い
イ:幼いお子さまには、スマホとの付き合いをどうやって伝えるのがよいのでしょうか?機能制限などの話をすると「なんで?」と納得できないお子さまもいるかもしれません。
塩:子どもから「なんで?」が生まれるのは、いきなりルールだけを決めてしまうからです。
「動画を観るのは8時まで」「ゲームは1日30分だけ」と時間で制限しているご家庭もありますよね。子どもに伝えるべきなのは「スマホをどう使ってほしいのか」「なぜ時間制限があるのか」という、ルールの深層にある理由や意味であり、私たちはそれを「理想の使い方」と呼んでいます。
保護者の方はまず、「理想の使い方」をお子さまにきちんと伝えて、理解を得る必要があります。大切なのは、子ども自身がルールを設けることの意味を「スマホばかり使うと他のことをする時間がなくなるからか」「画面を見すぎると視力が落ちるからか」などと、自身で気づくことです。
使い過ぎを指摘する場合でも、時間を過ぎていることに対してではなく、「理想の使い方」を守れていない姿勢を注意することがポイントなんです。
保護者の方次第でスマホは子どものメリットにもデメリットにもなる
イ:塩田先生は、子どもにスマホを持たせることのメリット・デメリットはどのような点だとお考えですか。
塩:私はスマホを早いうちから持たせることには肯定派で、メリットは大きいと感じています。いずれ持つのですから早めに付き合い方を学ばせて、そのなかで子どもを育てていきたいというのが私の考えです。
たとえば、私の娘はゲームが好きで際限なく遊びたがるのですが、「使い方の理想」を伝えていることで「やめる術(すべ)」が身に付いてきています。
時間の制限を決めることもひとつの手段ですが、同時に子ども自身に判断を任せることも必要で、それにより「タイムマネジメント力」が育ち、自律も促されると考えています。
もちろんそこには保護者の方の適切なサポートが必要です。お子さまのスマホの使用をメリットにするかデメリットにするかは、保護者の方にかかっているともいえますね。
ある程度子どもを信じてスマホを使わせることも大切
イ:仕事などで多忙な保護者の方は、どのようなかたちでお子さまをサポートすればよいのでしょうか。
塩:子どもをそばでずっと見守ることだけがサポートではありません。ある程度子どもを信じてスマホを使わせた上で、今日はどれだけ使ったかの報告やそれに対するフィードバックを行い、コミュニケーションをとるとよいと思います。
利用履歴をチェックできる環境も整えておきましょう。私も自分の娘が「今日はポケモンを何話くらい観たか」など、チェックしています。
スマホで将来のために大切な力を鍛えることができる
塩:また、小中高生のスマホ利用において、まず問題になるのが「使い過ぎ」ですよね。
私はタイムマネジメントの研究を続けており、そのなかで「時間をどう有効につかうか」も課題にしています。
タイムマネジメントでは,24時間の使い方を見直し,やることをリスト化し,どのくらい時間がかかるかを考え,優先順位を決めて取り組む力が求められます。こうしたタイムマネジメントの力を身に付けることが使いすぎの改善につながります。
タイムマネジメント力を早いうちに身に付けることは、将来のためにも大切なことです。そしてスマホは、それを鍛えるツールにもなるんです。
一方で,
先日行った調査で、子どもたちはタイムマネジメントを上手にしていても、結局「余った時間にスマホで暇つぶしをしている」ことがわかったんです。
ある高校で実施した調査では、余暇の過ごし方の第1位が「スマホで動画を視聴する」、第2位が「スマホでSNSをする」、第3位が「スマホでゲームをする」でした。
現代の子どもたちは余暇の捉え方が狭いことを実感しており、最近では、スマホの使いすぎを改善するために,いかにスマホ以外の余暇を充実させるか,というアプローチで研究をしています。
スマホだけでなく実体験も楽しんで余暇の充実を
イ:スマホやタブレットを利用した学習コンテンツも増えていますが、学びにデジタルを活用することに関してはどのようにお考えでしょうか。
塩:デジタルの学びへの活用は、かなり有用性がありますよね。今や未就学児から利用できるさまざまなコンテンツがあり、私たちが子どもの頃には想像もしなかった学びの可能性が広がっています。
我が家でも、妻が子ども向けの英語動画をよく流しています。
また「この昆虫は何だろう」といった疑問に対する答えが、インターネットを通じて簡単に見つけられることも利点ですよね。
ただし、これは一方で、たやすくわかった気になってしまうというデメリットもあります。ですから保護者の方は、スマホをきっかけに芽生えたお子さんの興味を「休日にこれを見に行ってみよう」と実体験にも展開してあげてください。そうすることが、余暇の充実にもつながると思います。
トラブルは起こる前提で日々お子さまと向き合ってほしい
イ:塩田先生は情報モラル教育にも精通されていますが、家庭での情報モラル教育はどうやって行うのがよいのでしょうか。
塩:いくつかポイントがあります。まず、情報モラル教育はモラル教育がベースになるということです。
例えば、幼児期に「挨拶をしましょう」「お礼をいいましょう」といった基礎的なモラルを学び、そこから発達に応じてできる範囲が広がっていきますよね。特に幼児に関しては保護者の方がある程度ハンドリングをして、日常のモラルを通して少しずつ情報モラルを学習する機会も作ることが大切だと思います。
そしてもうひとつ非常に重要なのが「トラブルは必ず起きる」と考えることです。教育工学の分野でもトラブルは起きる前提で何ごとも設計します。
保護者のみなさまには、トラブルが起こらないようにするのではなく、起きるという前提のもと、子どもと向き合ってほしいと思います。
中学生にもなれば、少しエッチなサイトをのぞいてみたり、好きな人ができて保護者の方には見せたくないメッセージのやりとりをすることがあるかもしれません。
もしかしたら、ネットいじめに遭うかもしれないし、怪しい人と会う約束をしてしまうかもしれません。
保護者の方は「何が危険か」よりも「どのくらい危険か」を軸に声かけを
こういったことを踏まえて、ご家庭ですべきことは、何かトラブルが起きたときに、子どもが相談できる環境を作り、相談すべきことを議論しておくことです。相談先は、ご家族だけではなく友達でもよいので、とにかくお子さまが隠さずに相談できる窓口を広くしておくことです。
また、小学校高学年頃からは「リスクを見積もる力」をつけさせることも意識して話していただきたいです。
子どもは「スマホで知り合った人に気軽に会うのは危険」とはわかってはいても、それがどのくらい危険なのかという「リスクの幅」の認識がずれやすいんです。
大人が100危険と思うことでも、子どもは「10くらいでしょ」と平気でかかわってしまうこともあります。
情報モラルやリスクについて教えるときに話すべきなのは「何が危険か」よりも「どのくらい危険か」です。これはリスク教育全体の根底にあることで、子どもへの問いかけを「何」から「どのくらい」に徐々に変えていくことは、情報モラル教育でもポイントになると思います。
学校だけに頼らず、ご家庭でも、日常的に情報モラルやさまざまなリスクに対する学習に目を向けて、子どもの対応力を幅広く養ってほしいと思います。
インタビュー後記(まとめ)
塩田先生は、スマホを持つことは、お子さまのタイムマネジメント力など将来に大切な力を鍛える機会になるといいます。そしてそこには、親子のコミュニケーションが不可欠です。
トラブルは起こる前提で日々お子さまと向き合い、トラブルが起きた際に相談しやすい環境を作っていくことや、お子さまへ「何が危険か」よりも「どのくらい危険か」を軸に声かけを行うことなど、インタビューのなかで出てきたポイントが、お子さまに対しての「スマホやデジタルツールとの付き合い方」を模索している方々の参考になればうれしいです。
<インタビューでご紹介した塩田先生の情報はこちらよりご覧ください>
<ご家庭で行える適切なスマホの使い方に関するサポートはこちらよりご覧ください>